お茶漬け

「お茶漬け」と聞いて、あなたは、いくつの「お茶漬け」を挙げられますか? 梅茶漬け、海苔茶漬け、鮭茶漬け・・・。大抵は、そこで言い淀んでしまいます。酒席のシメで、よく、お茶漬けを注文する御仁でも、あとは、鯛茶漬け、わさび茶漬け、たらこ茶漬けぐらいしか、名前が出てこないんじゃないでしょうか。
 今、手元に、「お世話になっている方への贈答用にでも」と思って取っておいた、高級お茶漬けセットのパンフレットがあります。ここまで挙げたもの以外を書き出すと、金目鯛茶漬け、炙り河豚茶漬け、穴子茶漬け、うなぎ茶漬け、焼海老茶漬け、しじみ茶漬け、蟹茶漬け、鮎茶漬け、鱈子茶漬け、炙り明太子茶漬け、炭火鶏茶漬け。どうですか、その豪華さもさることながら、種類の多さにビックリでしょう。でもね、「お茶漬け」の種類って、じつは、こんなものではないのです。魚介と、そのタマゴ類で、「お茶漬け」にならないものは、まず、ないと言っていいし、肉やハムだって、「お茶漬け」になってしまうんです。まあ、極端な話、冷蔵庫を空けて、何か魚や肉で残っているものがあったら、それはもう、立派な、お茶漬けの具の候補と思っていいくらいなんです。
 お茶漬けのバリエーションの豊かさの源泉は、具だけではありません。具をトッピングしたご飯にかける「お茶」と、具を脇で引き立てる、「吸い口」と呼ばれる野菜類。この2つも、お茶漬けの世界を広げる上で、多大な貢献をしているのです。
 まずは、かける「お茶」ですね。だいたいは、緑茶(煎茶)でいただくことが多いかと思うんですが、お茶は、他にも、番茶、ほうじ茶、ウーロン茶、昆布茶…と、たくさん、あります。いずれも「お茶漬け」OKなのは言うまでもありません。近年は、これに「だし茶」(だし汁とお茶をミクスしたもの)が加わり、かける「お茶」の選択肢は、さらに広がっています。その認知度も、「だし茶漬け」のチェーン店の登場で、急上昇中。他に、熱いお茶をかけるのか、冷たくしたお茶をかけるのかという、マニアックな選択肢もあります。
 次に、「吸い口」ですね。この言葉、初めて聞いたという方もいるかもしれないので、ネットの「日本の食べ物用語辞典」で調べてみると、こう書かれています。「吸い物などの汁物に浮かべて、芳香を加味するもの。出汁や素材の味や香りを引き立たせる。古くは香頭・香頭と呼んだ。柚子の皮や木の芽、ねぎ、生姜、ゴマなど」(原文のまま)。つまり、テレビの料理番組や料理本なんかで、よく、耳にしたり目にしたりする、あの「香味野菜」のことなんですね。引き立て方は、さまざまで、その野菜が持つ独特の香りだったり、豊かな風味だったり、鮮やかな色彩だったりするよう。
 ただ、まあ、「お茶漬け」の場合は、調理中に用いられるのではなく、単に、具に添えられるだけという事情もあり、種類は、少し、限られてくるようです。料理研究家・松田美智子さんの『お茶漬けの味100』(河出書房新社)によれば、一般的に、お茶漬けの「吸い口」として使われる香味野菜は、「日本の食べ物用語辞典」で挙げているユズ、ネギ、ショウガのほか、大葉、わさび、香菜、ミョウガなどに限定されているようです。














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 以上、お茶漬けを構成する三要素を見てきたわけですが、お茶漬けの特徴は、「具」、「吸い口」、「お茶」の組み合わせ方に、「必ず、この組み合わせでなくちゃいけない」という決まり事みたいなものがないということです。その日の冷蔵庫の中の事情、その日の気分・体調、食卓の上のお茶の事情などによって、三要素を自由に組み合わせて構わないということです。
 冒頭の高級お茶漬けセットのラインアップを見て、「お歳暮に、だれか、贈ってくれないものか・・・」と思ったでしょう。でもね、こんなの、何も、だれかに贈ってもらわなくたって(負け惜しみで言っているのではありませんよ、念のため)、こうした、お茶漬けの「原理」さえ知っていれば、家で簡単に作れちゃうんです。だって、「お茶の子さいさい」っていう諺まであるくらいなんですから(^^)。



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