食のミニマリズム

「 cool な食べ物」と言った場合の cool 。いったい、何をもって、カッコいいとするのか。これは、人によって様々と思います。手の込んだものがそうだという人もいれば、長い間、受け継がれた、日本古来の伝統的な食べ物がそうだという人もいる。あるいは、土地土地に伝わる郷土料理の類がそうだという人もいるかもしれない。まさに、議論の分かれるところです。
 しかし、ここでは、エイやで(?)、外国人が日本の食文化に最も期待するであろうところのものをもって、cool と考えました。外国人が日本の文化に最も期待するであろうところのもの。それは、一言で言えば、「ミニマリズム」ということではないでしょうか。
 ミニマリズム。どこかで一度は聞いたことがある言葉かと思います。でも、それって、どういう意味なのか説明できる人は、案外、少ないのではないでしょうか。それもそのはずで、中高レベルの国語辞典には、この言葉、載ってないからです。皆、意味がよくわからないまま、「ミニマルが一番」とか「ミニマル・ライフ、始めます」「ミニマリスト宣言!」というように、当たり前のように使っている。ま、大抵は、似たような言葉の「ミニマム」(=最小限。最小)と混同して使っているような気がしますけどね(^^)。
 これだけポピュラーな言葉が辞書に載ってないのは解せないと思い、大手町の大型書店の辞典売り場に駆け込み、『大辞林・第三版』(三省堂発行)を引いたら、出てました、出てました!(ちょっと、余談ですが、この『大辞林』は、”日本語[国語+百科]大辞典の最高峰”と言われるもので、あらゆる分野の言葉に最新項目を加え、何と、238,000項目も収録しています)。
 そこには、こう説明されています。「建築・美術・音楽などの分野で1960年代に登場した、装飾的要素を最小限に切り詰めた簡素な形式。」。なるほど、簡潔明快。でも、分かったような、分からないような…。なので、今度は、『知恵蔵』(朝日新聞社発行)に当たってみたら、そこには、噛んで含めるような、詳しい説明がしてありました。
「1960年代の米国で影響力をもった、形態や色彩を最小限度までに突き詰めようとした一連の態度。その絵画や彫刻作品は、ミニマルアートと呼ばれる。米国国旗を作品化したジャスパー・ジョーンズなどの影響を受けたフランク・ステラは58年、黒いエナメル塗料でストライプを描いただけの『黒の絵画』を発表。批評家に『芸術のための芸術』と呼ばれた。芸術が芸術でなくなる極限の均衡に成立する表現として65年、美学者のリチャード・ウォルハイムが『ミニマルアート』という名称を用いたが、まとまった運動ではなかった。」 
 ジャスパー・ジョーンズやフランク・ステラなど、知っている名前が出てきたので、やや、ホッ。かえって難しくなるので、説明の後半は省略させていただきましたが、要は、ムダや装飾など、余計なものはできるだけ省き、必要最小限の要素だけで、何かを表現すること、あるいは、それに何かを語らせることをいうわけですね。
 何という潔さなんでしょう! ま、そのことはさて置いて、じゃ、このミニマリズムを、食べ物に置き換えて表現したら、どうなるんでしょうか。おそらく、こんな表現になるんじゃ。

「余計な食材や調理の工程をできるだけ省き、必要最小限の食材と調理だけで済ませ、その食材が持つ潜在能力を最大限、引き出し、食材に語らせること」

 ふむふむ。なるほど。これなら、いかにも食べ物にうるさい外国人も納得のコンセプトですね(^^)。
 なお、この機会に、ミニマリズム、ミニマルアートのことを、じっくり勉強してみたいという方には、ミニマルアートの専門家として高名な、美術史家のマイヤー・ジェイムズ著の『ミニマリズム』(ファイドン発行)がお勧めです。(⇒次回に続く)

















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